江戸・東京の川「復活」構想

 東京都心部は、江戸時代から日本各地で産出した物産品や人が集散し栄えたが、これ可能にしたのが水運を支えた水路網であった。

 この水路空間の様子は、江戸の絵師・広重、北斎、雪且などが描いた浮絵や古地図をれば明らかであろう。

  江戸の繁栄を水運で支えたものは、地形の特性を読み解き、開削した網目状の水路空の形成がクローズアップされてくる。

  この水運を基軸にして栄えた江戸の町であったが、時が進み、大正・昭和時代になる道や自動車による輸送が発達してきたり、戦後の急激な都化の波をうけると、水路網の多くは埋められ、車道など都市施設に変わった。浮世絵に描かれた舟運の運の活気に満 ち 光景が「夢」だっかと、と思えるほど、水都-江戸の風景は消えたと思われてきた。

私は勤めていた大学で都市の川を再生するための調査・研究を永年にわたり取組んできたが、気がかりであったのは、江戸・東京の水路再生の可能性を見つけだすことであった。このテーマを探るための学生と共に、古地図、浮世絵、治水史などの資料を手当たりしだい集めた。数人の学生は、浮世絵集を数十冊集め、 研究室に持ち込み、解読をおこなった。これらの絵の多くは水辺風景や、水辺と人の交わりを美的に描いたものが目立って多くあった。江戸の町が水路空間によって、栄えたことが明らかとなり、これらの仕組みは、現代においても学ぶべきものがあると思った。

浮世絵の多くは、水辺でゆかたを着流して散歩する乙女たち、水路を行き交う舟上で夕みを楽しむ町民、水辺の桜や柳の下で宴会を開き、にこやかに踊る男女の粋な姿など、念に、しかも活き活きと描かれている。思わず絵のなかに取り込まれるような気さえした。

「よくもここまで水辺空間を私達に伝えていただいた」と感謝の念が湧いたのである。

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この浮世絵の世界を復活できないものか。これが実現すれば多くの市ら喜んでもらえるだろう、と考えた。

 この着想を実現化する方法として、筆者の専門であるランドスケープデザインという手法をよりどころにして、まず現存する江戸の水路(日本橋川、神田川、隅田川)を取り上げ、浮世絵で描いた地点を抽出し、学生動員してワークショップを毎年実を施した。注目すべき成果は、浮世絵で表現された造形や空間、風物詩的要素が断片的ではあるが「残存」していることがわかったである。

浮世絵の表現要素が現存する水路空間に見隠れしている情景を、私は江戸の「面影」、  「残像」、「イメージ のオーバーラップ」と呼んで、抽出 する作業をおこなってきた。浮世絵を手がかりとして、当時の水辺にまつわる面影さがしを市民に拡げるため大学で開講している市民講座で実施したところ好評を得てきた。今も続いている。江戸の水辺空間を蘇らせるには、絵図に表現された水辺活用の知恵や文化を伝承する環境を整えることがテーマになると考えた。

日本橋川沿いには掘割の残像、舟着場の右横護岸、名橋の数々、水辺風景のなごり、水辺の植物、動物(魚・ 鳥)が町民と交流する風物詩などが江戸時代に発生し、明治、大正、昭和の歴史的遺構が混ざり合いながら残っているとろもある。水面上部には高架道路があっても江戸の面影の断片を見いだすことが可能である。これら にランドスケープデザインの加工をすれば「面影」の再生・拡大となり、そこで浮世絵の空体験することが可能である。  

   ここで着想しているところの面影体験空間は、「博物空間」となり、展示空間(サテライト)  してネットワーク化される。この場所に立つと浮世絵の面影を誰もが体験できるのである。これが江戸の川・復活の始動となろう。

六年前(平成十五年) になるが、この着想を骨子として「江戸の川・ 復活」-――絵図から学ぶ『体感型野外博物館構想』と題した著書(東海大学出版)を上梓することができた。この構想立案で想定したのは、近い将来、日本橋川上部にある高架道路は耐用年限をむかえ、その代替案が必要とされる時期がくるものとして考えた。

本書の構想の要点は、実現までに時間が経過しても、「川沿いの散歩道(バーウオーク)と、橋詰と一体化した小広場」を創設し、そこには船着場が設けられ、「河岸」のたもとで花見、夕涼み、屋台店のショッピングなど、江戸の風物詩を復活するというものである。また、当時、活躍した和船(屋方付、高瀬舟、猪牙舟など)を登場させ、舟上では絵図に描かれた着物をまとい、飲食や遊びを楽しみながら「面影」を体感できる計画もある。

   私は、この「構想」が実現にむけて世論が動き出しやすくするため、市民活動の学習会や、大学が主催する公開講座に出たり、フィールドワークの案内役になったりして、江戸の川、復活の魅力を力説して歩きながら浮世絵師と語り、「面影」との出会いを楽しんでいる。

  (日本橋11月号掲載 平成22111日発行)

 

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このブログ記事について

このページは、渡部教室が2019年3月14日 14:37に書いたブログ記事です。

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