◎第四回 「オンライン落語」

オンライン落語をどう思うかと聞かれた。
寄席に行けなくなったら利用すると思う、というのが私の答えである。
なぜなら、寄席に行った方がおもしろいからである。笑いの幅は寄席の方が広いと思うからである。カメラの捉えていないところにもおもしろいことがあったりするのが寄席である。それに何と言っても、あの何とも言えない、まったりとした寄席の雰囲気は、オンラインでは味わえないからである。
  ところが新型コロナで本当に行けなくなってしまった。緊急事態宣言のため、寄席も自粛を要請されてしまったからである。ニュースで、自粛の感想を求められた寄席ファンが、こうゆうときだからこそ笑いが必要なのに残念だ、と答えていたのが印象的だった。まったく同感である。
とはいえ感染の拡大は防がないといけない。こっちの方が優先である。
そこでオンライン落語である。
世の中が暗くなりがちなときこそ寄席の出番である。何とかしたい。してもらいたい。というわけで、上野鈴本演芸場と浅草演芸ホール、そして落語協会が協力して、寄席ファンのために、5月上席をYouTubeで無料配信してくれた(鈴本演芸場は昨年も単独で実施)。

鈴本演芸場&浅草演芸ホール 席亭より皆様に緊急のお知らせ - YouTube

鈴本演芸場チャンネル - YouTube

浅草演芸ホールチャンネル - YouTube

この心意気がうれしいではないか。
鈴本演芸場の鈴木席亭と浅草演芸ホールの松倉席亭には心からお礼を申し上げたい。
演者たちは、無観客の中、カメラを前にして演じるわけである。いつもと勝手がちがって、さぞかしやりにくかったことだろう。しかし、カメラの向こう側には、連休中に寄席に行くのを楽しみにしていた、たくさんの寄席ファンがいる。一人一人の笑いの中には「ありがとう」の気持ちがこめられていたにちがいないのである。

オンライン落語があったらいいなと思うときは他にもある。
たとえば国際線の機内。機内で寄席の中継が見られたらいいなと思う。今も音声だけの落語は聴けるし、それでも十分楽しめるのだが、いかんせん寄席には、曲芸や紙切り芸など目で見ないと伝わらない芸もある。落語以外のいわゆる色物も寄席の大きな魅力のひとつである。
とにかく国際線の機内は長いし、狭いし、やることはないし、一番いい過ごし方は眠ることだと思っている。時差ぼけ対策にもなるし。でもそうかんたんに眠ることはできない。そもそも座って眠るのだから体勢に無理がある。無理な姿勢がたたって起きてからふしぶしが痛くなる。しょっちゅう海外に出張する外交官や商社マンならいざしらず、年に国際線を利用するのがせいぜい1〜2回の身にしてみれば、機内をいかにして過ごすかはけっこう大きな問題なのである。寝られないときには、機内で上映されている映画を視るか、音楽を聴くことが多い。それがせいぜい4時間くらいである。到着してからの楽しみが大きいのだから、そのくらいがまんしたら、といわれたらそれまでではあるが、寄席があれば退屈しないですごせるのに、と思ってしまうわけである。

さて、ここからは想像である。
寄席をまるまる中継するとして、昼の部開演から夜の部閉演まで、休憩をはさんでおおよそ8時間。ぶっ続けに寄席を楽しんで、少し休憩したら、そこはハワイだった、というのが実現したら、すなおにうれしい。八っつぁん熊さんからいきなりアロハオエ―っていう、この落差が痛快ではないか。落語に漫才、曲芸に手品にものまね、紙切りなんかもあるから、外国人だって楽しめる。退屈しのぎにはもってこいだし、日本の伝統芸を学ぶよい機会にもなる。途中で寝るのだってOKである。機内食は寄席と同じ助六でいい(私は!)。寄席では禁止されているお酒も飲める。乗客の中には寄席に興味を持つ外国人も出てくるかもしれない。そうゆう外国人は来日時に寄席に行くかもしれないし、帰国後に母国で日本の伝統芸能として紹介してくれるかもしれない。いいことづくしではないかと思う。
もっともこれは私が寄席ファンだからそう思うだけで、そうでない乗客がどう思うかわからない。なんでこんなに寄席ばっかりやってるんだ、という苦情が出るかもしれない。そうゆう乗客は映画とか音楽を楽しめばいいだけのはなしではあるが、ここは事前に丁寧に説明しておけばいいだろう。何とかなりそうだ。
航空会社のみなさん、「寄席の見られる」国際線についてご一考いただければ幸です。 つづく
 


都内寄席ガイド
 鈴本演芸場(上野)http://www.rakugo.or.jp/
 浅草演芸ホール(浅草)http://www.asakusaengei.com/
 新宿末廣亭(新宿三丁目)http://www.suehirotei.com/
 池袋演芸場(池袋)http://www.ike-en.com/     

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