南池袋にある本立寺(ほんりゅうじ)は元和4 (1618)年に善了院日詠によって創建された日蓮宗の寺院。江戸時代中期には、播州姫路藩榊原家六代政邦の生母であ延寿院が帰依し、以降は榊原家の正室側室代々の菩提寺である。
榊原政岑(さかきはら まさみね)は、江戸時代中期の播磨国(兵庫県)姫路藩主。旗本であったが、宗家榊原政祐の養子となり、享保7(1732)年、政祐の死後、家督を相続して姫路藩主となった。将棋や三味線、浄瑠璃、能楽などに堪能。風流大名として異彩を放ち風流な性格で知られる。白河藩主・松平基知の養女を正室にめとったが亡くなった後、寛保元年(1741)の春には吉原の三浦屋の名妓・高尾太夫を1800両で落籍する。高尾大夫を秤に乗せてそれと同じ重さの小判を積み重ねたという話もある。
おりしも八代将軍・徳川吉宗により質素倹約が進められている中であり、政岑の遊興にふける 姿は吉宗の怒りを買い、寛保元(1741)年10月、姫路から越後高田への転封を命じられる。政岑が 27歳の時だった。本来であればお家断絶や改易処分となるところ榊原家は徳川四天王の名家であったことから、徳川譜代大名の説得により転封で済んだといわれる。 高尾太夫もまた高田へ同行、越後高田城に住むが、寛保3 (1743)年2月7日に高尾に看取られながら29歳の若さでこの世を去る。
政岑の死後、 高尾は仏門に入り、蓮昌院と号して政岑の菩提を弔う。天明9 (1789)年1月1日に30余歳で病死したとされている。
※太夫(だゆう)
花魁(おいらん)ともいい、大名、豪商を相手とする最高の遊女の位。美貌は、勿論のこと、書道、華道、茶道、将 棋、三味線や琴、歌にいたるまで習い事をして、知識や教養も身につけていた。
※1両の価値とは?
米から換算すると江戸初期10万円、 中〜後期 3〜5万円。
※転封 (てんぼう)
知行地、所領を別の場所に移すことである。国(くにがえ)、移封(いほう)とほぼ同義。
※改易(かいえき)
江戸時代、侍に科した身分は平民におとし家禄、屋敷没収。腹切よりは軽い。
※��川四天王
徳川家康を主に軍事面で支えた武功派の家臣たちのこと。 酒井忠次、本多忠勝、榊原康政、井伊直政の4人。
▲雑司が谷いろはかるたの「せ」の札には 「千八百両 遊女高尾は本立寺」がある。
絵と文: 矢島勝昭
▲榊原家の墓誌
「蓮昌院殿清心妙華日持法尼」と法号が刻まれている。
天明九己酉歲正月仲浣九日と日付もある。
榊原家の人として大切に処遇されたということがわかる。
取材協力：豊島区立郷土資料館 （『豊島の選択』より加筆転載）
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