面影橋を渡り「山吹の里」の碑の前を通り過ぎ、さらに奥に進んだところに南蔵院はある。
真言宗護国寺の末寺で医王山としている。寺伝では開山は永和 2(1376)年に円成比丘(えんじょうびく) と言われる。同寺のご本尊の薬師如来は木造の立像(三尺四寸) とされる。
円成比丘が諸国遊化の時に、とある農家に藤原秀衡の持仏と言い伝えられていたご本尊が祀られ いた。それを入手し笈＊に移し携えてきたが、その折、俄かに重くなり 当地に草庵を建て安置したのが開創であると伝えられる。
＊ 笈(おい) 仏具などを入れて背負う、あしつきの箱)
▲ 「江戸名所図会 7巻」 国立国会図書館デジタルコレクション より
●怪談乳房榎 (ちぶさえのき) あらすじ
南蔵院は「牡丹燈籠」や「真景ヶ淵」 などの口述筆記で、二葉亭四迷 (1864〜1909) の言文一致運動に影響を与えた落語家・初代三遊亭圓朝 (1839〜1900)の代表作の一つ「怪談乳房榎」の舞台となった寺としても知られている。絵師・菱川重信は南蔵院の本堂の天井画に雄龍、雌の絵を描くことになり、泊まりがけで仕事をしていたが弟子の磯貝浪江(浪人)は重信の妻おせきと密通。 発覚をおそれた浪江は重信を蛍狩りに神田川の田島橋付近へ誘い、川へ投げ込み殺すのである。息子の真与太郎は使用人の正介により赤塚村へ逃れ、その地にあった榎の木の乳房の形をしたから流れる雫を飲んで成長する。
一方、天井絵の牡竜は眼が未完成だったためか、重信の怨念は亡霊となり夜な夜な現れて天井へ筆をはしらせ完成する。 そして、いよいよ、重信の祟りが及ぶようになり、浪江はおせきまで殺してしまう。 成長した真与太郎は父・重信の霊力を借りて親の仇である浪江を最後は討ち果たすという筋書きである。
※この噺の中に出てくる乳房榎があったのは赤塚村(現・板橋区赤塚) の松月院。
取材協力：豊島区立郷土資料館
（『豊島の選択』より加筆転載）
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