目白通り「高田1丁目交差点」から面影橋方面へと下っていく「宿坂」という坂道がある。鎌倉時代に宿坂の関という鎌倉街道の関所が設けられていたという。天保年間 (1831〜１845)刊行の「江戸名所図会」に描かれた金乗院の周辺は樹木が茂っているが様子がわかる。「暗闇坂」という別名通りにかつては鬱蒼（うっそう）と生い茂り、昼間でも樹木の影で薄暗く、怪異な事が起っても不思議はない不気味な場所だったのだろう。
その中でも人々を化かす狐狸の話が『豊島の民話 』(1974年発行)の「おばけ坂」にある。 そこには紅葉狩りに来た神田の商人たちの話が出てくる。南蔵院を抜け、宿坂に差し掛かると晴れていた空が急に薄暗くなる。 足元に炎がめらめらと燃え上がる。 ほうほうの体で護国寺の門前の茶屋でおかみさんに話すと「やっぱりやられましたか」と言われる話である。 宿坂に棲む狐狸は炎だけでなく石もふらせるという悪戯もしたようだ。
さて、前号では、「入寂原」にふれたが、ここから400メートルほど西に大岡主膳正の屋敷があった。 更に西へ行くと根生院という寺院がある。かつて徳川御三卿のひとつ、田安家が下屋敷を構えていた場所であり、広い邸内は、宿坂同様に狐狸が棲みつく恰好の薄暗い茂みだったのだろう。
ここでも民話の「たぬき騒動」の中に狐狸の話がある。 年に3回ほど陣笠を被った鉄砲隊の練習があり、 西原という大砲方の侍が狐理を生け捕り、御前にさし出し褒美をいただいた。ところが西原の妻は腹をたたいたり、飛び跳ねたりと狐狸の真似をしたところ祟られたのか、遂に狂い死にしたという。その後、西原は引きこもり、やがて行方知れずと なったという話がある。 民話などの伝承は実際にあった出来事とは限らないが当時の情景を推測することができる。
▲ 宿坂関旧址・金乗院観音堂 ・「江戸名所図会」所収
▲ 「豊島の民話」
取材協力：豊島区立郷土資料館
（『豊島の選択』より加筆転載）
|
前のページ 静かな「四ツ家町」で起こった 不可思議な事件の真相は? |
コンテンツのトップ |
次のページ 面影橋を渡りミステリアスな逸話が残る南蔵院へ |
江戸ことば 月ごよみ
