明治35年(1902)にドイツ語教師として日本の近代化に寄与すべく来日したリヒャルト・ハイゼは、現在の一橋大学や学習院で20数年教鞭をとる中で、皇族をはじめ明治の元勲や知識人たちとも親交をもった。
その中でも世界初の破傷風菌の純粋培養に成功し、ペスト菌を発見し「細菌学の父」とよばれた北里柴三郎とは深い親交があったと思われる。第一次世界大戦後にハイゼは財産を没収され窮地に陥るが、それを救ってくれたのが北里柴三郎である。
大正13年(1924)に帰国後も日本を強く想い続け、同年11月にハンブルク郊外の新居から手紙を送っている。(「日本人の忠誠心と信仰」 から） 「拝啓 尊敬する旧友北里男爵殿1年も終わりに近づくと私の思いははるか遠くの日本へと飛んで、困窮にあって真の友であることを示してくれた北里男爵の本で翼を休めたいと願うのです。(略)雑司ヶ谷の家にある私の中国製の箪笥と仏壇と仁王様はまだ売れませんでしょうか (略)今年は先生の盛大な新年会に参加する事ができません。けれども心の中では先生とともに新年を祝うつもりで居ます。感謝をこめて」
ハイゼの東洋復帰の強い願いは日本政府の許可がおりず叶わなかったが、北里に対しては切実な気持ちを訴え続けていることが分かる。“二度と日本を訪れない”と思っていたハイゼだったが、昭和12年(1937) 初冬、再び日本の土を踏み、会津若松の白虎隊の丘に立つ。忠臣蔵や白虎隊の忠誠心を尽くす日本人の信仰・ 精神文化に深く魅せられ続けたハイゼは東山温泉の神瀧旅館の宿帳に記す。
「ここに署名せる者は1937年11月30日という日を生涯記憶にとどめておくことだろう。(略)白虎隊の忠誠心が日本の若者たちにうけ継がれますように。今は亡き白虎隊士の墓は日本の将来を担う若い世代にとって一つの教訓である」と。 その半世紀後に、孫娘のマルゴット・ ヴェルネックが同じ宿で老主人から祖父の署名を見せられるとは、思いもしなかったことだろう。
▲福島県飯盛山のハイゼの墓
会津白虎隊の丘で眠りたい。 という遺志を伝えてあった。
※昭和15年(1940) 4月23日に中国大陸を旅行中、北京で腎臓病により死去(享年71)。
妻のヨシはまるで後を追うように昭和17年 (1942)3月2日に結核で死去する。
取材協力：豊島区立郷土資料館
※「日本人の忠誠心と信仰』 リヒャルト・ハイゼ著 瀬野文教 (訳) 草思社刊より
『豊島の選択』より加筆転載）
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