軍事権力の象徴だった鷹狩
徳川歴代の将軍たちは鷹狩(鷹による狩猟で放鷹ともいう)をし、中でも三代家光は128回、八代吉宗が4回と群を抜き、特に家光は最も多い年は1年に3回もの御成(外出)をしている。鷹狩は将軍の単なる遊戯や趣味ではなく、幕府の制度として設けられ、特に近郊農村とも深く関わり課役や諸規制を伴うものだった。将軍を頂点とする幕藩領主階級の権力編成にあった。鷹狩を行うものは天皇による制限もあり、 徳川は毎年天皇へ「御鷹の鶴」と献上するならいもあった。言わば軍事権力の象徴であった。
鷹場(鷹狩の場所)は静謐な環境で獲物となる鳥類が多く生息するところでなくてはならない。豊島区域には鶴・雁・鴨・雀・真鶴・鵠・鶉・鶏など多種の鳥が生息していた。ま た、鷹は羽が濡れる事をとても嫌う ため、先ずは犬が茂みにいき鳥たちを追い出す事が必要であった。
母の影響力が絶大の綱吉
さて、将軍の中でも五代綱吉 (1646〜1709)は、館林藩主時代は鷹狩りに出かけたことはあるが就任以降、生類保護の政策を打ち出してからは殺生を伴う鷹狩を一度たりとも挙行していない。 天和3年(1683)年、愛児の徳松を5歳で亡くし、病吉の生母の桂昌院が帰依する祈祷僧・知足院降光に相談をしたところ「前世に殺生なんした応報ゆえ、殺生を厳禁されよ。将軍は戌歳の誕生、犬は狗、犬を愛し情わ垂れたい」(「それは将軍様が前世で多くの殺生を行った報いでございます。もし生き物をいつくしみ、殺生を禁ずるのであれば、必ず男子に恵まれます。あなた様は戌年のお生まれゆえ、とくに犬を保護するといいでしょう」)と吹き込まれる。確かに、網吉の生まれた正保3年 (1646)は丙戌である。
江戸市中の犬を集め」 犬畜敷の建設へ
「徳川実記」によれば、江戸市中の犬を集め元禄8年(1695)6 月に四谷(約1万9000坪)次いで、大久保(約2万5000坪)に広大な大屋敷が作られる。さらに同年11月「生類憐れみの令」が施行され中野村に犬屋敷の建設、収容が始まる。この中野の大屋敷は、現在の中野区役所周辺を中心に約30万坪におよび、そこに常時1万頭以上の犬 を飼育していた。施設の中には犬医も常駐して、野犬の飼育をした。 飼育費も年額9万8000万両以上に達したといわれ、江戸の商家や天領の農民が負担したようだ。(＊元禄8年頃の1両は当時の米の価格を基準にすると現在では約6〜7万 円ほどか)
▲綱吉が建設した中野の「犬屋敷跡」。 中野区役所前(JR中野駅)に1991年10月に犬の像が設置された。
取材協力：豊島区立郷土資料館『豊島の選択』より加筆転載）
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