秋田雨雀(あきた・うじゃく、本名は徳三)は明治16年(1883)1月30日に青森県南津軽郡黒石町(現 在、黒石市)に誕生。父親の玄庵は19歳で盲目となったが漢方医、針医として学を修めた。雨雀の作品に盲目の人を題材としたものが多いのは父が盲目であったことにもよる。病弱で臆病な自分を「雨雀」とよび、 のちにペンネームとなった..
明治35年4月に東京専門学校英文科(現在の早稲田大学)に入学。 雑司が谷での生活の第一歩は明治38年5月、山田誠吉宅(雑司谷24番地)に下宿するところから始まる。 以来、雨雀にとって雑司が谷は第二の故郷となる。冬になり隣家の前田やすの家に移り、明治39年、やすの 娘きぬと結婚。雨雀24歳。きぬは雨雀より年上で再婚者だった。
さて、明治末期から大正にかけての鬼子母神界隈は鬱蒼とした森の中に家が点在するところだった。文士たちは雑司が谷に行けば誰かに 会えると雑司ヶ谷めぐりが始まった。「雑司ヶ谷の梟」のあだ名で 呼ばれた雨雀は寂しがり屋で人好き。仲間たちを呼び、鬼子母神境内の茶屋に文人や画家たちが参集する。
明治45年発行の「文章世界」4月号(博文館)に雨雀は「森の會」の 記録 憂鬱な森の窓にて」を執筆している。「私達はこの森の影の中に長い間住んでゐる。この森の周囲には若い文学者や有名な画家の群が入り替わり差し替わり来て住んで
ゐた。一旦都会に逃れて再び森の生活を慕って来たものもある。私達のやうに森の中に小さな家を造ってゐるものも亦森の外にゐるものにも、 この森は一つの不思議な巣であった」 と。そして、雨雀は、森で一番深い縁 故を持つ人として、御風、東明、未明の3名を挙げている。茶屋では会合がひらかれたようだ。「蝶屋」の主人・宇佐美半三郎は鳥を囮(おと り)にして、かすみ網で雀をとったと言われる。暮れ始めた茶屋で、仲間 たちは雀の焼き鳥でも食べながら、 思想論や芸術論をたたかわせたの だろう。
▲「新編若葉の梢」から
鬼子母神堂境内茶屋位置図 明治大正時代の茶店の様子
※相馬御風（そうま ぎょふう)詩人 、歌人、評論家。早稲田大学校歌「都の西北」をはじめ「春よ来い」などの童謡の作詞者。
※人見東明(ひとみ とうめい)詩人。 教育者、昭和女子大学(日本女子高等学院) の創設者 。
※小川未明(おがわ みめい）児童文学作家。「日本のアンデルセン」「日本児童文学の 父」と呼ばれた。
取材協力：豊島区立郷土資料館『豊島の選択』より加筆転載）
|
前のページ いつの世も変わらぬ子をおもう親心 疱瘡除けの「赤色」 |
コンテンツのトップ |
次のページ 不運続きの中でも童話・詩へ熱い創作意欲 〜秋田雨雀 |
江戸ことば 月ごよみ
