雑司ヶ谷物語〜➀日本写真発展史
良質な水、空気、湿度 三大条件を満たした土地 東洋乾板の創業
日本の写真の歴史は幕末に輸入された湿板写真で本格的な幕開けとなる。明治16 年にイギリスから乾板写真が輸入されるものの日本国内では事業としては難しかった。
乾板はゼラチンに感光剤をくわえたものをガラス板に塗布して乾燥させたものでその製造に必要なことは良質
な「水」「空気」「湿度」だった。しかし高温多湿な日本において乾板の工業化は成功しないと思われていた。
さてこの乾板製造に雑司ヶ谷で成功した新潟出身の高橋慎二郎という人物がいる。
彼は、日本橋若松町の写真館「玉水館」で写真技術を学んでいたが乾板製造の研究に専念するため、玉水館を辞職。大正２年（１９１３） 慎二郎は、東京府北豊島郡高田村大字雑司ヶ谷町１４７番地（現在の南池袋２ー41 ）に転居、大正３年（１９１４）墓地側の東京府北豊島郡高田村雑司ヶ谷１１４番地（現在の南池袋４ー23）に 「高橋乾板研究所」を設立し、乾板製造に着手、乾板製造に成功する。
当時の雑司ヶ谷は人家もまばら、霊園の森が鬱蒼としており、井戸水も豊富だったという。高橋慎二郎は各地の井戸水を取り寄せたところ、雑司が谷の水質が最も良かったことでこの地に決めたという。
まさに雑司ヶ谷が乾板製造に最適と言われる土地であった。
その後、資産家の菊池恵次郎の支援を得て、大正８年（１９１９） ２月11 日、
東京府北豊島郡高田町大字雑司ヶ谷６２６（現在の東京都豊島区南池袋２ー40）に「東洋乾板株式会社」を設立するのである。
＊ 日本に写真が伝わったのは、嘉永元年（1848）に島津斉彬が銀板写真機材を入手。安政4年（1857）に島津斉彬の銀板写真の撮影成功。明治22年（1889）、日本は大日本帝国憲法公布された年、アメリカのイーストマン社からニトロセルロースベース（セルロイド）の透明ロールフィルム発売。これが世界初のフィルム。日本におけるフィルム使用は明治27年、日清戦争で陸地測量部従軍写真班の小倉倹司が、従来の乾板に代わりフィルムを使用した撮影を行ったのが最初だと言われる。
取材協力：豊島区立郷土資料館 （『豊島の選択』より加筆転載）
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