想像に及ばない 〜『鬼子母神』参道門前茶屋の繁盛ぶり ！
都電荒川線「鬼子母神前」 停留場を下車し、徒歩数十秒 でケヤキ並木の鬼子母神参道 に着く。郷土史研究家の矢島勝昭氏によればこの道筋が鎌倉街道だったという。
この参道は江戸時代、土産物屋、料亭が軒を連ね賑わったところである。繁栄は徳川将軍家の参拝が多く行われていた時期、つま り八代吉宗から十一代家斉の時 代である。「遊歴雑記」にも門前茶屋の繁盛ぶりが書かれており、広重の「鬼子母神茶屋繁 盛記」を見ても分かる。ご開帳の時などは大名、旗本、奥女中たちが連日、参詣して境内の雑踏は今では想像に及ばないも のだったようだ。 現在の参道入口左角のところ に江戸料理屋番付に載るほどの人気料理屋の「茗荷屋」があった。
広重の「江戸高名会亭尽」の中にも繁盛ぶりが描 かれている。「茗荷屋」は芝神明の火消し「め組」と角力小屋の力士との大喧嘩で有名な 「め組の喧嘩」の手打ち式が行われたことも知られている。 右には「蝶屋」、「あやめや」、 「むさしや」（茗荷屋に次ぐ大 きな料亭）が軒を並べる。中 でも「蝶屋」では雀焼きが有名で、最後の主人宇佐美半三郎は鳥をおとりに笛を吹き、 かすみ網で雀を捕る。屋根棟 の雀を棹の先に刺してしまうほどの腕前だったともいわれる。 少し離れたところには雑踏を避けて文人墨客が清遊し た「耕向亭」。金剛寺坂坂上に住んでいた当代一の文人・大田南畝も足繁く通ったようだ。 弦巻川をのぞめる料亭では酒宴や書画の会を楽しんだ。
しかし、この多くの料亭は文政年間の終わりになると雑司ヶ谷名物・戸張喜惣次の藪そばと ともに衰微していくのである。
▲歌川広重画「江戸高名会亭尽 雑司ヶ谷之図」 豊島区立郷土資料館蔵
正面の入口に「御料理めうがや」とあり、二階建の建物が見える。江戸 時代後期の宝暦年間（1751〜64）頃から江戸には料理屋がではじ め雑司ヶ谷の茗荷屋もその一つである。『江戸買物独案内』（文政７年 （1824）刊）に「即席御料理 雑司ヶ谷 茗荷屋沖右衛門」とある。
▲雑司谷鬼子母神堂」 （『江戸名所図会』〈郷土資料館提供〉所収）
19世紀前半の鬼子母神参道の景観を描 いた絵である。左下の文言は、「門前両側 に酒肉店（りょうりや）多し、飴をもて此地 の産とし、川口屋と称するものを本元とす、 其家号を称ふるもの今多し」とある。
取材協力：豊島区立郷土資料館 （『豊島の選択』より加筆転載）
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